もう既に明らかなように、シエラ・レオネにある黒御影石の採石場の話は、マザールが言っていたような、実体のないあやふやな作り話ではありませんでした。大監査法人デロイト・トゥーシュ・トーマツの専門家達も、また実際に現地で陣頭指揮をしていたアレンも認めているように、採石場はちゃんと実在し、また少量ながらサンプル出荷もしていました。しかしそれだけで直ぐに事業として成立する訳ではなく、アレンのスライドの説明にもあったように、黒御影石を実際に切り出し、研磨し、輸送し、販売して営業ベースに乗せるためには、当然ある程度の初期投資資本が必要でした。しかしこれは初めから分かっていた事です。インペリアルからPIに乗り換えられた投資家の皆様も、即座にPIからの償還が受けられると期待されたのではなく、PIの方も回収に時間は掛かるかも知れないが、御影石と言う実物資産が存在する事によって、少なくとも投資債権は将来的には保全されると言う、安全性の故に乗り換えを決断された筈だからです。
フレイザーやブルックもこの状況は公知の事として、黒御影石の事業に対する運転資金を募集していました。事業化するためには運転資金が必要であると言う事は、フレイザーとのインタビューの時にも明確に述べています。この募集は最初、世界各地のブローカーやイントロデューサーを対象に行われ、後には投資家に対しても直接投資を呼び掛けています。ここに添付するのはイントロデューサー向けの説明書の翻訳と、投資家向けのパンフレットですが、イントロデューサー向けの説明書の中でフレイザーとブルックは、事業を軌道に乗せるために追加の資金が必要な事を明確に述べています。イントロデューサー向けの説明書は翻訳した上で皆様のイントロデューサー諸氏に配布されましたが、投資家向けのパンフレットは私の一存で配布しない事に決めました。私はブルックに対して、インペリアルからPIに乗り換える案自体には賛成できるが、但し現状が改善されない以上、日本人投資家からフレイザー・ブルックの事業にはこれ以上一銭も投資させない、と言いましたが、それは、投資家に返済するのに時間が掛かるのは止むを得ないが、しかしこれ以上の金銭的負担を求めるのは間違っている、との思いからでした。
この黒御影石事業はこちらが腰を据えて待つ覚悟さえすれば、ゆっくりではあってもそのうちには何とかなるだろうと思われましたし、また仮令フレイザーやブルックが事業化に失敗したとしても、御影石そのものは腐ったり消えてなくなったりする物ではありませんから、採石場自体の資産価値が今以上に減ずる事はない筈だと私は判断しました。今でもこの考え方自体は基本的には正しかったと思っています。確かに投資資金の回収はできるだけ早くしたいのですが、そうかと言ってPIの事業化を急ぐ余り、ここで追加の資金を出す事は余りにも躊躇われる事でした。しかし追加資金の拠出を要求される事なく、今までインペリアルに対して持っていた債権を、ただPI社に対する新しい債権に書き換えるだけの事であるならば、さほどの不安は感じませんでした。しかし、もしここで追加出資を出して、さらにもしPIの事業化が成らなかったならば、投資家は二重に持ち出しになるだけです。これは私としては肯んずる事のできないリスクでした。従って投資家向けのパンフレットは翻訳される事もなく、お蔵入りとなった訳です。ところが後になってから知った事ですが、投資家をインペリアルからPIに乗り換えさせる事によって、私が相当な手数料を得たと非難する人達がいたようです。腹が立つ以前に呆れた思いをしましたが、人によっては随分と卑しい事を考えるものだと、つくづく思い知った次第です。
オフショアは潰れたが完全に償還した唯一のファンドとして残る、とのレターを添付。
最後に肝心な事を再び申し上げましょう。ゴデリックにあるこの黒御影石採石場は、現在第三者の手によって経営され、現実に事業を行っていると言う話を、私は関係者から聞かされています。くどいようですが何度でも申し上げます。マザールの妨害によってPI社までもが潰されていなければ、皆様が債権を移行されたPI社は、確かに時間は掛かったかも知れませんが、当初の予定通り確実に石を掘り出し、その利益によって皆様に着実に返済ができた筈だったのです。嘘を付く事など何とも思っていないライアンとウッドは、自分たちが濡れ手に粟の利益を得るためには、どうしてもインペリアルを詐欺であったと言うシナリオで、全ての事を運ばねばなりませんでした。従ってアルゼンチンでの鉱山事業は、全て架空の物として葬り去られたのです。それは我々インペリアル関係者にとっては耐え難い屈辱でしたが、それでも投資家に資金が返されるのであればまだ我慢はできました。しかしマザールはそれだけでは飽きたらず、投資家が救済される手段(即ちPI社によるスキーム)までもを強引に潰しに掛かったのです。
考えてみても下さい。このスキームを提唱したのはフレイザーやブルックであり、フレイザーやブルックはマザールの嘘を暴こうとしていました。(皆様からインペリアルに対する債権の譲渡を受けたのは、最大の債権者としてマザールに対して影響力を行使するためであった言う事は、既に説明したとおりです。)一方マザールは、フレイザーやブルックの事業が全て詐欺であると言う虚構の前提に立って、今まで投資家に嘘の説明してきた訳ですから、ここでPI社に実体があってもらってははなはだ具合が悪くなります。フレイザーやブルックに関する事は、全て詐欺でなくては論理的な一貫性に欠けます。ましてフレイザーやブルックが、インペリアルとは独立したこの黒御影石事業を通じて資金を蓄積し、自分達に対して法的な挑戦をしてくるようになったら大問題です。何が何でもフレイザーやブルックに事業をさせてはならず、PI社はどんな理屈を付けてでも潰しておく必要がありました。その余波として皆様の債権がどうなろうと、彼らに取っては初めから知った事ではないのです。