私と投資家の代表がマザールを排除する相談のため、この日この場所でフレイザー等と会合を持つ事は、一部の日本人投資家及びマザールにも知られていました。日本にはご承知の被害者の会と言うものがあり、一部の投資家は未だにインペリアルが詐欺であったと信じているようです。その彼等が英国の警察に対して私の逮捕を要請したと言う事も、可能性として全くあり得ない事ではありません。しかし緊急逮捕を要請したのがもし彼等であったとしたら、より意思疎通の簡単な日本の警察に対して、私が滞日中にそれを行なわなかった事の説明が付きません。また仮に一部の日本人投資家が英国の警察に対してアピールしたとしても、外国からの不確定な情報だけで、任意の事情聴取すら飛ばしていきなり逮捕と言うのは、先進国の司法常識としてはやはり極めて考えにくい事です。唯一可能性として残るのは、警察やSFOから信頼されており、逆に言うならば彼等に対してある程度の影響力を行使でき、緊急事態であるから早急に逮捕せねばならないと、彼等を焚き付ける事が可能な立場にあった者のみです。マザールとSFOの間に人事の交流がある事は事実ですし、またマザールは、SFOに対して影響力を行使する事ができると放言している事を考えると、彼等がSFO(ひいては警察)を動かす事は、それほど困難な事ではなかったと思われます。即ち強大な権限を持つSFOは、マザールとは普段から人的交流があったため、彼等の言う事を厳密に検証する事もなく、リンカーン州警察を動かして私を逮捕してみたものの、どうも様子が違うらしいので何とも無様な善後策となった、と言う事ではなかったのかと思われます。これでマザールはSFOに対して面目を失う事になりますが、それを犠牲にしてでも取敢えずは私の活動を制止しなければならない理由があったのです。それは以下に述べるとおりです。
フレイザー及びブルックはマザールから民事訴訟を受けていました。2003年6月頃だったと記憶しますが、彼等は法廷においてマザールと正式に対決し、マザールの不正を糾弾すると共に、自らの無罪を証明するつもりで準備していました。実際彼等はそれを心待ちにしていると言っていました。何故なら法廷であからさまな嘘を言えば、マザールは偽証罪に問われるからです。そしてフレイザーとブルックはその嘘を証明する事ができたからです。しかし公判直前にマザールは彼等を破産に追い込み、その結果彼等が弁護士を雇う事はできなくなってしまいました。刑事訴訟では国の費用で弁護士が付けられますが、民事訴訟では自己負担で弁護士を雇わなければならないのです。即ちマザールを糾弾するのに一番熱心であった彼等は、マザールを公の場で糾弾するための機会と手段を奪われたのです。要するに彼等は、もう公にマザールに挑戦する事はできなくなったのです。ここにおいてフレイザーとブルックは、最早マザールに取って何の脅威ではなくなったため、マザールは彼等に対する民事訴訟も取り止めてしまいました。無理に訴訟を継続してフレイザーやブルックが、仮令弁護士はいなくても、不都合な事を暴き始めるといけないからです。
私はと言えば、フレイザーやブルックの無実を証明する事に興味はなく、ただ色々と明るみに出てきた事実を事実として私なりに理解した結果、マザールの不誠実と非行に確信を持つに至ったのですが、この段階でフレイザーとブルックは前述のごとく既に無力化されており、またゴドリーはマザールと取引をしたらしくどこにも登場する事はなく、反マザールの債権者運動を推進して行くリーダーは一時的に不在の状態でした。フレイザー等が組織した債権者運営委員会には、世界各国から700余名の債権者が名を連ねていましたが、もともとの提唱者であったフレイザー等が無力化されてしまったため、組織としてはまだまだ弱体のまま放置されたような状態でした。ただその中で伊藤理事長の率いる日本の債権保全回収組合は280名の組合員を有し、またマザールに関する情報も既にある程度収集済みであったため、マザールに取っては最もまとまった単一最大の脅威として映っていました。当時の私は日英間を行き来しながら、日本においては債権保全回収組合の事務局として、また英国においては対外的に伊藤理事長を代表して、この運動を債権者運営委員会と連携して推進する立場にありました。即ち、伊藤理事長に代表される280名の日本人投資家の支持をバックに、700名の債権者運営委員会とも協調して反マザール活動を展開していた私は、マザールに取っては最も目障りな存在であり、どうしても無力化しておかねばならない存在であったのです。